緩くいこうぜ、人生長いんだ。

お前の人生ようやく始まったようなもんじゃん。

【感想】世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド / 村上春樹

友人に村上春樹でおすすめの作品は?と聞いたら紹介してもらった本。

タイトルが非常にユニークで面白そうだと思って読み始めた。

 

物語は、現実世界に似た世界「ハードボイルド・ワンダーランド」と、ファンタジーの世界「世界の終わり」の二つが交互に進んでいく形をとっている。

途中まで、双方がどのようなかかわりを持っているのかは分からない。

しかし、物語の途中で「ハードボイルド・ワンダーランド」が現実世界で、「世界の終わり」が主人公の思想世界だということが分かる。

 

この物語で訴えられていることは、「自分として生きる意志」だと思う。

 

作中で、「世界の終わり」は壁に囲まれた、全てが存在している完全な街として描かれている。

そこに住む人も、何かに思い悩むことなく静かに暮らしている。

しかし、そこで完全であるために、自らの心を捨てる必要がある。

心を失って初めて人は完全であり得、完全な生活を送ることが出来るという。

 

心を失うことで完全になるという事は、「心=不完全」という前提が存在する。

主人公は、自らの心を失い、一時完全への道を歩もうとする。

しかし、最後には心を死なせず、不完全ながらも生きていこうと決意する。

 

完全であるということは、一切の不満が存在しないということだ。

とかく不完全で不満だらけの世の中に住んでいる私達にとって、完全な世界とはユートピアのように感じられる。

完全な世界に存在する方がよっぽど良いように思われる。

しかし、この物語の主人公は違う。

 

主人公は、完全であることの代償に自分の心を失うのであれば、不完全なままで生きていくことを選んだ。

心がその人がその人である鍵であるとするならば、主人公は「自分自身」として生きることを選んだということだ。

自分を失って完全を得るよりも、不完全でもいいから自分でありたい。

そのように考えたということだ。

 

以下のようなセリフがある。

「それが立派な世界かどうかは俺にも分からない」と影は言った。「しかしそれは少なくとも俺たちの生きるべき世界だ。良いものもあれば、悪いものもある。良くも悪くもないものもある。君はそこで生まれた。そしてそこで死ぬんだ。君が死ねば俺も消える。それがいちばん自然なことなんだ」 

 

主人公の心である「影」が、「世界の終わり」から抜け出そうと主人公を説得するシーンで言うセリフだ。

セリフにある通り、私たちが生きている世界は、何かと足りない事が多いし、嫌な事も沢山ある。

でも、そんな世界に生まれたからには、そんな世界で生きていかなくてはならない。

そんなことを思わせてくれるセリフだ。

 

物語の最後に、主人公は自らの人生に対してこのように言う。

しかし私はこのねじ曲がったままの人生を置いて消滅してしまいたくはなかった。私にはそれを最後まで見届ける義務があるのだ。そうしなければ私は私自身に対する公正さを見失ってしまうことになる。私はこのまま私の人生を置き去りにしていくわけにはいかないのだ。 

まさに、不完全な世界でも生きていこうという意思を感じられるセリフだ。

 

 日々生きていると、嫌な事や辛いことがありすぎる。

全てを投げ出したい気持ちになることも多々ある。

しかし、それでも私達は自分たちの人生に対してきちんと責任を持って最後まで見届ける必要があるのだろう。

そうすることこそが、生きるということなのかもしれない。

 

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上巻 (新潮文庫 む 5-4)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上巻 (新潮文庫 む 5-4)

 

 

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 下巻 (新潮文庫 む 5-5)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 下巻 (新潮文庫 む 5-5)